栄養成分ブレンドコーヒーの手引き(^^)

第380話 番外編 オイルとエッセンシャルオイルの違い

シリーズ『くすりになったコーヒー』

 コーヒー豆を絞って作るコーヒーオイル(写真下)と、蒸留して作るコーヒーエッセンシャルオイル(同上)、揃って日本市場にもお目見えしそうです。オリーブオイルに比べれば知名度はありません。それもそのはず、コーヒーオイルはコレステロール値を高めて心血管病死の原因になりますし、エッセンシャルオイルにはレギュラーコーヒーに勝る魅力がほとんどありません。

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 コーヒー製品を製造した後に残る大量の滓、コーヒー店で抽出後に残るこれもまた大量の滓、年々増える家庭のコーヒー滓、これらの総量は石油に次ぐ貿易量に達しているので、その20%を占めるオイルのリサイクルが可能となれば、世界経済への影響もバカになりません。

 以前からコーヒー滓の利活用について、コーヒー好きの個人レベルでも試行錯誤されていました。冷蔵庫やトイレの匂い消し、花壇の肥料、スクラブ用の化粧品、燃料などの人気が高いようです。肥料や燃料に使えるわけは、滓に入っているオイルです。そのオイルを奇麗に抽出すれば、オイルそのものは燃料に、香りは化粧品に使えるはずです。

●コーヒーオイルの作り方

  1. 圧搾法 生豆や滓に高圧を掛けてオイルを搾り取る。
  2. 炭酸ガス超臨界抽出法 液化炭酸ガスで抽出し、炭酸ガスをガスとして取り除く。

     注意すべきは、原料が生の豆(生豆)かそれとも焙煎豆かで、成分が大いに異なることです。生豆のオイルはトリグリセリドなので、他の植物油と同じです。違うのはジテルペノイドを結合したグリセリドが混ざっていること。このジテルペノイドはカフェストールとカウェオールで、両方とも飲めばコレステロール値を高めます。さらに飲み続ければ、心血管病に罹るリスクが高まります(文献多数あり)。

     焙煎豆のオイルには、生豆オイル成分よりもずっと多いコーヒーアロマが含まれています。飲むのは危険ですが、香りを楽しむ価値はあります。

●コーヒーエッセンシャルオイルの作り方は水蒸気蒸留だけである。

 製品の中には「抽出法」と書いたものがありますが、これにはジテルペン・グリセリドが混入するので飲むことは危険です。水蒸気蒸留の製品にジテルペンは入っていません。もし混入しているとしても微量ですから問題ありません。

 生豆と焙煎豆の製品では香りが全く異なります。生豆の製品にコーヒーの香りはありませんが、焙煎豆の製品にはコーヒーアロマが濃縮されています。ケーキやクッキーの香り付けには焙煎豆の製品であることをよく見て買うことが大事です。

 さて、このように「コーヒーオイルもエッセンシャルオイルも原料と製造法の差によって全く異なる」ことを知っておく必要があります。コーヒーオイルと書いてあっても、よく見ると「オリーブオイルにコーヒーオイルを混ぜた製品」だったりします。米国製でこの程度ですから、それを原料に日本で更なる加工が施されれば、もう何が何だかわからないものになってしまいます。

 消費者の皆さんはご注意ください。
(第380話 完)


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第379話 患者の珈琲学(その45)ニコチン酸欠乏症Ⅲ

シリーズ『くすりになったコーヒー』

「コーヒーが病気を予防する」という疫学論文が3,000編を超えました。全部読んで解ったことは次の3つ。

1.希少疾患と感染症を除くほぼすべての病気が調査された。
2.毎日コーヒーを飲む生活習慣が四大死因病の罹患リスクを下げている。
3.結果としてコーヒーを飲む生活習慣が平均寿命を引き延ばす。

 疫学データが増えるにつれて、「どうしてコーヒーが効くのか?」の実験が始まりました。カフェインが神経細胞を活性化すること、クロロゲン酸が血糖値を下げる、トリゴネリンが免疫細胞を抑制する・・・というような論文が沢山出ています。しかし、これらをいくら足し合わせても四大死因病(癌、心臓病、脳卒中、呼吸器疾患)を予防して平均寿命を延ばすという「コーヒーの効き目」は説明できません。

●四大死因病を予防するとどうして寿命が延びるの?

 取り敢えずの答えは「病気にならないから」ですが、これでは薬理学的説明とは言えません。今世紀初めに、「赤ワインのレスベラトロールが長寿遺伝子を刺激して長生きする」との論文がNature誌に載りました。しかしこの論文は後に否定されてしまいました。現段階では「コーヒーが平均寿命を延ばす薬理学」は解っていません。

 ここで改めて「薬としてのコーヒーの歴史」を振り返ります。すると、放置すれば今でも不治の病なのに、コーヒーが効くと言われていた病気に気づきます。

●17世紀半ば、ロンドン初のコーヒーハウスの広告に「コーヒーは浮腫病と壊血病に効く」と書かれている(書いた人は血液循環論のウイリアム・ハーベーとの推測あり)。

●19世紀半ば、宗谷岬で北方警備のため越冬した津軽藩兵は「コーヒーを飲んで浮腫病を免れた」との記録がある。

 一説によると、壊血病と浮腫病は同じ病気です。古代ローマ軍の遠征時に似た病気の記録があるそうですが、Scurvy(壊血病)と言う名は15世紀末に帆船の実用化が始まってからのこと。Dropsy(浮腫病)は体に水が溜まった状態でEdema(浮腫)とも呼ばれ、飢饉のときに起こる種類を流行性浮腫病(Epidemic Dropsy)と呼んで区別していたようです。日本では専ら浮腫病と呼ばれました。ですから「壊血病と流行性浮腫病」は同じ病気と言えそうです。

大航海時代(15~17世紀)の200年間に少なくとも100万人の船乗りが壊血病で死んだ。

 にもかかわらず、航海中にコーヒーが配られた記録がありません。詳しくは書けませんが、「航海中の船内で毎日高価なコーヒーを飲めたのは船長室だけだった」と想像できます。何故なら当時のコーヒーは非常に高価であったため、身分の低い船乗りたちに配られることはなかったはずです。つまり、コーヒーハウスの広告に書かれた「コーヒーは浮腫病に効く」は、大航海の船長とその側近たちの話であって、船長が浮腫病で死んだという記録はないのです。

●コーヒーが浮腫病(壊血病)を予防するとの歴史的傍証は宗谷岬の記録以外に存在しない。

 そこで、宗谷岬津軽藩兵が食べていたであろう1日の食事の内容【津軽藩氏・斎藤文吉の日記から:米2合(300グラム)、味噌(10グラム)、干し鱈(100グラム)、沢庵(20グラム)、はくさい塩漬(30グラム)】について、主なビタミンの充足率を、文科省「食品成分データベース(https://fooddb.mext.go.jp/)」を使って計算すると、表1ができます。充足率の他に、メルクインデックス他から引用した溶解性と体内半減期、および筆者の推測ですが、欠乏リスクと生命リスクの大よその大小比較を書き込みました。

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 ここで現代科学のメスを入れてみます。昨年発表された論文によりますと、実際に深煎コーヒーを飲んだ後に、尿中からニコチン酸が検出されました(図1を参照)。宗谷岬津軽藩兵たちは、当時貴重だったコーヒーを毎日飲んでいましたから、体内のニコチン酸量はビタミンとしての必要量を満たしていたと推測できます。また筆者らの実験では、深く煎ったコーヒー豆には最大で5ミリグラム/1杯10グラムのニコチン酸が入っています(詳しくは → こちら )。

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●深煎コーヒーを飲んでいた津軽藩兵のVB3充足率は100%に達していた。

 ということは、ミトコンドリア(Mt)でエネルギーを作る補酵素NADはほぼ正常だったことを示唆しています。そして唯一豊富に備蓄していた津軽の米が十分量のグルコースの素になったはず、その代謝分解で生じるピルビン酸はMtにエネルギー原料として供給されたはずです。しかしVB3とピルビン酸以外の栄養素はほとんどが不足していました。それでも津軽藩兵が全員生きて故郷へ戻れたことには、浮腫病の重症化を防いだ何かがあったはずです。これを考える前に、現代医療が危篤状態の患者に対して行う栄養補給を見てみましょう。

●重症患者がICUで受ける救命栄養措置とは?

 昨年、このことについてよく纏まった論文が出ています(詳しくは → こちら )。

 図2をご覧ください。ICUで集中治療を受けなければ命が危ない患者にとって、Mtの機能障害は致命的です。青い四角に白字で示すのは、Mtの機能障害が全身に及ぼす病的影響です。どんな薬物治療を施すとしても、的確な栄養補給(緑色)がなければ助かりません。逆に栄養補給が有効に働いた患者なら、Mt機能が改善されて、薬物治療にも反応しやすくなります。そしてICUを出た後の順調な回復が見込まれるのです(茶色)。

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 宗谷岬津軽藩兵に浮腫病の症状が出たとしても、当時は治療法がありませんでした。Mtの機能がギリギリの状態だったとはいえ、それでもコーヒーを飲むことで越冬期間中に亡くなることはなかったのです。図2の右側を見て下さい。

●Mtが機能を発揮するためには、補酵素NADの他にビタミンその他の小分子が必須。

 緑色の表に書いた赤字(コーヒー由来)を除く小分子が、どれも大なり小なり不足していたとはいえ、どうにか役目を果たしました。これらのうち8つのビタミンと1つのミネラル(セレン)は必須栄養素ですが、その他の8つは必須ではありません。さらにカフェインを除く7つは体内でも合成される小分子です。ではカフェインはというと、もしあれば、Mt機能の向上に寄与するとの説がありますが、詳細は不明です。

 それでは最後に、津軽藩兵がコーヒーを飲んで補充したVB3(NAD)とVCの関係について考察します。

●VCはMtに集まって抗酸化性を発揮する(詳しくは → こちら )。

 図3をご覧ください。Mtの膜にVCを輸送するタンパク質があって、内部のVC濃度は外より高くなっています。MtのVCは、活性酸素の消去(左下)に加えて、カルニチン合成を助けて、脂肪酸のMtへの取り込みとβ-酸化分解を促進し、アセチルCoA合成に寄与しています。カフェインがあると、カルニチンによる脂肪酸の取り込みがより早くなります。またVCはアドレナリン合成の補酵素で、アドレナリンがグルコース代謝分解を促進するので、ピルビン酸の供給効率が高まります。このように、VCはMtにエネルギー原料を補給する役目を果たしているのです。

ニコチン酸NADとなって、エネルギーを作るTCA回路を回転させる。

 図3の赤字です。Mtが作るエネルギーとは、TCA回路の回転で生まれる高エネルギー物質ATPのことです。ニコチン酸(VB3)からできるNADが、TCA回路を動かす補酵素となってATPを作っています。TCA回路は、いわば人体の発電所として、極言すればVCとNADで回転しているのです。

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 ここで1つ困ったことに、NADがTCA回路を回転させると、自らはNADHに変化して、同時に活性酸素を放出します。この活性酸素は俗に「錆の原因」と言われるように、周辺の酵素その他を変性させて、Mtの老化と死を招く障害となります。これを阻止するためにVCが必要で、VCの強い還元力が、活性酸素の酸化性を中和しています。一方、Mtから細胞質に漏れ出した活性酸素はそれなりに処理されますが、発生現場のMtで処理するのが最も効率的な処理法なのです。

●VCはMtにとって重要なのだが、その詳しいメカニズムは解っていない。

 NADはVCがなければ機能の持続ができません。VCとNADは車の両輪であって、どちらが欠けても生きて行けません。しかし、少ないVCがMtに集合するとはいえ、不足していることに変わりはなく、その不足を何がどうやって補っているのか、その詳細は未知の話です。今言えることは、ごく最近になって1つの可能性が示唆されたことです(第377話も参照)。

●糖尿病ラットに深煎コーヒーを飲ませていると、眼のレンズにVCが増えて、白内障が予防できる(詳しくは → こちら )。

 コーヒーの白内障予防効果を高脂肪食ラットで実験したところ(図4)、眼球レンズにVCの蓄積が観察されました。そしてこのラットに白内障は起こりませんでした。作用成分を解析した結果、カフェインの他にピロカテコールが関与していることが解りました。図右の棒グラフで、高脂肪食ラットのレンズではVC濃度が低下していますが、カフェインだけ含む生豆エキスではそこそこ回復し、深煎りにしてピロカテコールを増やしたコーヒでは、ピロカテコールの効果が加算されていたのです。

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 この実験は眼のレンズだけを観察したものですが、もし他の臓器にもVCの蓄積が起こるのであれば、津軽藩兵の浮腫病の予防にVB3を含むコーヒーが効果的であった理由が説明できることになります。もう暫くの間、コーヒーサイエンスの進展を見守りたいと思います。
(第379話 完)

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第378話 患者の珈琲学(その44)膵臓癌の肝転移

シリーズ『くすりになったコーヒー』

 膵臓癌は治りにくく死亡率が高い病気です。癌が膵臓内に留まっていればまだしもよいですが、肝臓に転移すると大変です。肝臓癌の生存率は他の臓器癌とは比べ物にならないほど低いからです(詳しくは → こちら)。

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 図1をご覧ください。膵臓癌の診断が下ってから、5年生存率を比べてみると、男も女も肝臓癌の次に悪いのです。ですからもし膵臓癌が肝臓に転移すると、生存率が大幅に短縮されてしまいます。
膵臓癌が肝臓に転移するメカニズムが解ってきた(詳しくは → こちら )。
 これまで、膵臓癌が肝臓に転移し易いことは知られていましたが、その詳しいメカニズムは不明でした。つい最近になってNature誌に載った論文によりますと、転移には「癌が仕組んだ巧妙な仕掛け」があるのです。

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 図2をご覧ください。先ず膵臓癌が作る免疫物質IL-6(左上)が肝臓に入ります。するとそこで転移前ニッチという不安定な微小組織が出来上がります。ニッチの中にはIL-6受容体があって、膵臓からくる更なる刺激を受けるのです。すると次にSTAT3という発癌因子が作られて、それがもとになって、ニッチ周辺に膵臓癌細胞を受け入れる準備が整ってきます。つまり、膵臓癌はまず転移先に居場所を確保して、それから引っ越しするという順番なのです。
 ところでこの論文には書いてありませんが、筆者はコーヒーオイルに含まれているジテルペンに興味があります。何故なら、その1つカウェオール(図2の構造式)が膵臓癌の肝転移に介入する可能性があるからです。
●コーヒーオイルに含まれているカウェオールは、炎症を起こした肝臓でIL-6産生とSTAT3の活性を抑制する(詳しくは → こちら )。
 この論文の内容を図1に書き込んでみました。カウェオールが肝細胞でSTAT3合成を抑制するということは、膵臓癌が肝臓に定着しにくいことを意味しています。少なくともその可能性があるということです。さらに加えて、
●カウェオールを含まないドリップコーヒーは、ウイルス性とアルコール性肝炎の癌化を抑制する(詳しくは → こちら)。
 コーヒーと肝臓癌の論文は他にも多数あって、どれもが「コーヒーは肝臓癌を予防する」と結論づけています。コーヒーが膵臓癌の肝転移を抑制するとの論文はありませんが、もし運悪く膵臓癌と診断されたなら、毎日コーヒーを飲むことが増悪を予防する1つの有力な方法と思えるのです。
(第378話 完)

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第377話 患者の珈琲学(その43)糖尿病患者の白内障

シリーズ『くすりになったコーヒー』


 食生活の乱れ、運動不足、積もり積もって2型糖尿病になりました。でもそれで終わりではありません。糖分が多めの血液は身体のあちこちに不具合を起こします。太い血管と細い血管、何処も彼処も合併症を起こす危険地帯になっています。しかしもっと他にもあるのです。
●血液が流れていない目のレンズでも、糖尿病白内障は厄介である(詳しくは → こちら )。
 白内障は目のレンズに濁りが生じて視野が暗くなり、治療しないと失明する病気です。レンズの濁りは誰でも年を取れば大なり小なり起こりますが、糖尿病の人に起こると進行が早く、失明のリスクが高まります。予防できるものなら予防したい・・・糖尿病患者なら皆がそう思っているでしょう。
 糖尿病白内障の研究は予防が第一で、それには糖尿病そのものの治療が大切です。白内障をどうこうするというよりは、糖尿病を治療したり、例え治らなくても進行を遅らせることに効果があります。ですから糖尿病白内障の研究はほとんどないと言ってよいくらいなのです。そんな状況の中、2016年に「コーヒーが白内障を予防する」との論文が発表されました。
●コーヒーを飲んでいる人は白内障が原因の視覚障害になりにくい(詳しくは → こちら )。

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 図1のカフェイン源はそのほとんどがコーヒーなので、1日に300㎎ということは、コーヒーほぼ3杯に相当しています。実はこの杯数は、疫学研究で心臓病死リスクが最低値を示す数値で、それと同じ杯数でレンズの濁りを10%以下に抑えられるということは、予防法として高く評価できるはずです。
 このデータを受けて、慶応大薬学部の田村教授がラットを使って実験しました(詳しくは → こちら )。教授がまず気づいたのは、「高脂肪食でメタボ化したラットの白内障予防には、生豆より焙煎豆がよい」ことでした。次に気づいたのは、白内障のレンズには抗酸化性のグルタチオンやビタミンC(VC)が減っていることでした。そこで最初に取った策は、焙煎すると増える抗酸化物質を探すことで、答えは表1のようになりました。候補に挙げていた4つの成分のうち、カフェインとピロカテコールがグルタチオンやVCの減少を抑えたのです。

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 実験の一部を図2に示します。縦軸はレンズ内のVCの濃度で、通常食で飼育したラットでは、水、コーヒー、カフェイン、ピロカテコール、そのどれを与えても変化はありませんでした。一方、高脂肪食でメタボ化したラットでは、水だけ飲ませていたラットのみVC濃度の低下が明確でしたが、コーヒー、カフェイン、ピロカテコールのどれもが同じように、ほぼ正常値に近い値でレンズの透明度を護っていました。

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 以上の結果を概念図で示します(図3)。この目がラットの目というよりもヒトの目に似ている訳は、図1に示したヒトの疫学研究で「コーヒーを飲む習慣が視力の低下を防ぐ」というデータがあったからです。

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 田村教授の論文には、VCの他にグルタチオンでも同じ結果が得られたと書かれています。VCと同じく、グルタチオンの抗酸化性がヒトのレンズの透明度を保つ要素の1つになっているのです。
●糖尿病になったら毎日深煎りコーヒーを飲んで目を護ろう。
(第377話 完)

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第376話 患者の珈琲学(その42)肝臓癌患者の肝移植

シリーズ『くすりになったコーヒー』

第376話 患者の珈琲学(その42)肝臓癌患者の肝移植

 これまでにも、「コーヒーを飲んでいる人が手術で入院すると、普通より早めに回復する」との論文がありました。回復が早い理由として、全身麻酔の影響で止まっている腸の蠕動運動が回復しやすいからで、1日だけ早く普通食が食べられるようになったとか、おならが半日早く出たとかいうデータが載っていました。では入院日数が減ったかというとそうでもないのです。要するに大した効き目ではなかったのです。ところが今回の論文は、
●コーヒーを飲んでいる肝臓癌患者は、最後の手段である肝移植後の死亡率が格段に低い(詳しくは → こちら)。
 手術の傷が早く治るとかの次元を超えて、癌が再発したり無駄に命を失うことが減るというのです。正に想定外の効き目です。研究したのはドイツと米国の錚々たる9病院の共同チームで、調査症例数は90、全例が肝臓癌、そのうち16症例(17.8%)が約1年後に癌を再発しましたが、最長12年の死亡例を多変量解析したところ、術前・術後のコーヒー摂取が死亡率と関係していることがわかったのです。数値を見ると、術後1日3杯以上のコーヒー摂取で、死亡リスクのハザード比HRが、コーヒーを飲まない群の1.00に比べて0.29の低値を示していたのです。
 百聞は一見に如かずですから、論文に掲載された図をご覧ください。

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 2枚の図は、左が手術前のコーヒー、右は手術後のコーヒーの1日杯数と生存率の関係です。コーヒーを飲まない人のグラフは赤色で、1日3杯以上は黄色です。右図によれば、術後に毎日飲むコーヒーが、生存率を飛躍的に高めていることが見て取れます。コーヒーが手術の予後に及ぼす効果をこれほど明確な有意差で観察した論文は初めてで、にわかには信じられないほどのデータです。
 さて、日本の肝臓移植の実績を見てみますと、コーヒーの調査こそありませんが、下表に示す術後生存率が発表されています。ドイツのデータよりやや優れた数値ですが、まだまだ改善の余地がありそうです。ですから、術後には積極的にコーヒーを飲むなど生活習慣を変えることも大いに有望な改善策ではないでしょうか。

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 今回のドイツ発の論文は、薬では不可能な手術による死亡リスクの改善が、ごくごく簡単な日常生活の工夫で実現できるという、夢のような話を真面目に考える切っ掛けになると考えられます。
●コーヒーは本当に偉大な唯一無二の飲みものである。
 コーヒーはたった1つの植物の種に過ぎないのに、そこには何種類もの薬用植物の処方箋が詰まっていること、確かな事実として受け入れるときがやってきました。
(第376話 完)

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第375話 患者の珈琲学(その41)ニコチン酸欠乏症(Ⅱ)

シリーズ『くすりになったコーヒー』


(前回のつづき)
 さてさて、コーヒーのニコチン酸(VB3)とメチルピラジンNADを増やすと言っても、実際に1杯のコーヒーを飲んでどれ程の効果があるのでしょうか?客観的に効き目を見積もるのは難しいので、先ずはコーヒーを飲んだ後で血中ニコチン酸に起こる変化を見ることにします。実験プロトコル(図1)をご覧ください(詳しくは → こちら)。

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 コーヒーを飲む前2日間は、ニコチン酸(NA)もニコチン酸アミド(NAM)も含まない食事で過ごしました。3日目の朝に飲むコーヒーは、フルシティー程度の豆のようです。これを30グラム使って湯で淹れて、500ミリリットルにして飲んだそうです。その後は図1の矢印ごとに採尿し、2日半を過ごしたということです。

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飲んだコーヒーには4.28ミリグラムのニコチン酸と0.071ミリグラムのニコチン酸アミドが入っていました。この量はVB3として1日必要量のほぼ3分の1に相当しています。これら2つと代謝物の測定にはHPLC/MS法を採用し、図2のような全部で4つの化合物を測定しました。
図3はニコチン酸の排泄動態で、飲んだ後に速やかに吸収されて、1時間で排泄ピークとなり、その後も速やかに排泄されて、半日でほぼ終わりました。ニコチン酸アミドもよく似た変化を示していました。

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 これに対して、2つの代謝物の排泄量は10倍以上で、計算によると4つの化合物の合計で90%が吸収されて尿中に排泄されたことになります。つまり食べたニコチン酸の利用率は非常に良好ということです。
 では、コーヒーの香りに含まれる各種のメチルピラジンはどうでしょうか?これらの香りが体内に入ると、ピラジン酸に変わるのですが、一体どれだけの量を飲んでいるのか正確な計算はできません。1杯に1ミリグラムに満たない香り成分のうち10種類程度が寄与すると思われるからです(詳しくは → こちら )。
 未解明の部分は多々残ってはいますが、コーヒーを飲むとニコチン酸が体内に入り、NAD生合成のデ・ノボ経路の活性化に寄与することは明らかです。NADは全身の細胞でエネルギーを産生し、長寿遺伝子サーチュインを活性化し、いわば「元気の素」となって病気を予防し、三大死因病の死亡リスクを減らし、元気で長持ちのPPKを実現してくれると考えられるのです。
●やっぱりビタミンは凄い優れものなのだ。
(第375話 完)

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第374話 患者の珈琲学(その40)ニコチン酸欠乏症(I)

シリーズ『くすりになったコーヒー』

 焙煎したコーヒー豆にたった1つだけ入っているビタミンはニコチン酸(VB3の1つ;下図の左)。1杯あたりの含有量は、深煎りで最大4~5㎎なので、1日2~3杯で必要量を満たします。VB3が欠乏するとペラグラ(重症の皮膚疾患)が起こります。見た目よりずっと致死的となる理由は、気管支や消化管など体内の粘膜が破壊されて、息ができない、栄養が摂れない、といった状態になるからです。
●VB3欠乏症とその予備軍がどれ程いるか、実態は不明で調査も難しい。
 筆者がVB3欠乏症を心配する訳は、毎日食べるものでVB3を多く含むものが少ないからです。言い換えれば欠乏症の予備軍はかなり多い可能性があるのです。豚肉などにはニコチン酸アミド(同じくVB3の1つ;下図の右)が含まれていますが、毎日肉ばかりを食べる生活は良くないとの意見も多いのです。その意味では毎日飲むコーヒーにニコチン酸が入っているのは本当にありがたいことです。

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●コーヒーのニコチン酸が実際に役に立ったと思われる歴史上の出来事がある。
江戸幕府津軽藩に命じて、宗谷岬のロシア軍侵攻に備えました。しかし、厳冬期の食糧不足が原因で、浮腫病(壊血病と似ている)で死亡する兵士が後を絶ちませんでした。幕府は蘭学者の勧めに従って越冬地にコーヒーを支給したのです。その時の記録によれば、コーヒーが配られた冬に浮腫病で死んだ兵士は居なかったのです。
●先祖の苦労とコーヒーへの感謝の気持ちを込めて、弘前市は珈琲の街になった(詳しくは → こちら )。
記録に残された津軽藩兵の食事内容から、欠乏したであろう必須栄養素を予測したデータがあります(薬史学雑誌51(1):5-10;2016)。ほぼないに等しいくらいの欠乏はVA、次にVC、更にVB3と続いています。つまり津軽藩兵の浮腫病とはVA/C/B3の総合欠乏症だったようです。この中で、コーヒーで補給できるのはVB3だけですから、いくらコーヒーを飲んでもAとCは不足のまま・・・それでも浮腫病が防げた理由は一体どういう薬理学なのか、あるいは偶然の出来事だったのでしょうか?
●今年1月8日の朝日新聞にこんな記事が載っていました(原著論文は → こちら )。

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 新聞記事によれば、ミトコンドリアで働く重要な補酵素NAD(記事の☆)が老化を予防する新メカニズムが見つかったとのことです。新メカニズムとは、「NADの原料となるNMN(記事の□)が専用通路(記事の〇)を通って細胞の中に入る」というもので、専用通路のことを「NMNトランスポーターまたはNMNゲート」と呼ぶことにしたのです。
筆者がこの記事に注目したわけは、つい数か月前のNature誌にもNMNが載っていたからです。NMNとは、ニコチン酸アミド・モノヌクレオチドの略で、その分子の一部がVB3で出来ているのです(図1も参照)。Nature誌の論文は次のようなものでした。
NADは病気を予防して寿命を延ばすために必須の補酵素で、普通はリサイクル(図1赤色のサルベージ経路)されている(詳しくは → こちら)。

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このサルベージ経路にはニコチン酸アミドとNMNがあって、週に何回か肉や魚を食べていれば、普通はそれでよいのです。しかし、何かの理由でストレスが溜まると、リサイクルだけのNADでは必要なエネルギーを作れなくなって、VB3不足になってしまいます(詳しくは → こちら )。
●ストレス時のNAD不足を補うため、必須アミノ酸トリプトファンからの生合成経路(図1のデ・ノボ経路)が動き出す。
このデ・ノボ経路の中間体ACMSは、非ストレス時には必要ないので、脱炭酸酵素が働いて分解消滅しています。しかし一旦ストレスが掛かりますと、NAD生合成に向かってデ・ノボ経路が動き出し、結果として、デ・ノボとサルベージの両経路を合わせて十分量のNADが作られるというわけです。
さらにNature誌によると、ストレス時のNAD産生効率を一段と高めるために、ACMS脱炭酸酵素阻害薬が試されました。昔から知られていた阻害薬ピラジナミド(結核治療薬として使われている)では作用が弱いとの考えで、新薬候補物質を作って試したのです。しかしコーヒーを研究している筆者は、ピラジナミドに興味をそそられました。その理由は、
●ピラジナミドがACMS脱炭酸酵素を阻害するその活性本体は、実は代謝産物のピラジン酸で、コーヒーアロマからできるピラジン酸と同じである(図2を参照)。

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結核治療薬のピラジナミドとコーヒーアロマのメチルピラジン(図2では省略)は、どちらも体内で代謝されて、共通の代謝産物ピラジン酸に変わります。そしてこのピラジン酸が、図1に書き込んだように、ACMS脱炭酸酵素を阻害して、NAD生合成を盛んにしてくれるのです。そしてNature誌論文の最後の段落には、「デ・ノボ経路を強力に進める新薬候補は、病気を予防し健康長寿への道につながる」と書いてありました。
●コーヒーは、NADの原料としてニコチン酸を補給するだけでなく、ACMS脱炭酸酵素を阻害して、NADデ・ノボ経路を活性化する(図1を参照)。
 ではもう1つ、極めて示唆に富んだデータを紹介します。高脂血症薬として前世紀にヨーロッパで開発されたアシピモックスは、体内で5-メチルピラジンカルボン酸(5-MPCA)になってから作用します(図2を参照)。この活性本体5-MPCAの構造は、コーヒーアロマ(2,5-ジメチルピラジン)からできる化合物と同じです。2015年、オランダ・ドイツ・フィンランドの研究グループが、アシピモックス1回250ミリグラムを服用した患者の体内で、NAD生合成が高まっていることを発見しました(詳しくは → こちら )。
このように、ACMS脱炭酸酵素を阻害してNADを増やす化合物に共通する化学構造がコーヒーアロマに潜んでいるなどとは、だれも考えなかったことです。もしかするとコーヒーのニコチン酸とアロマの成分に、病気と老化を予防するパワーが潜んでいるかも知れません。
このお話は次回に続きます。
(第374話 完)

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